リスくん観察日記

2012年7月生まれの通称リスくんを観察する日記

「ウズラはどこだ?」義母宅滞在記

純粋な子どもには知らないほうがよいこともある。そんな体験をしたので、記しておく。

 

先日、息子リスくんを連れて、義母※の家に滞在した。

義母からは荷物を極力へらしてお泊まりにくるように、口をすっぱくしていわれていた。

毎回くるたびに、リスくんのおもちゃやら絵本10冊くらいもってくる私に、長い移動時間で大変だろうからとの気遣いからだ。

だから、今回はおきにいりの絵本1冊に厳選した。

 

※離婚した元夫の母親は、なんて呼べばよいのだろう。便宜的に義母にしておく。

 

さてさて、通称リスくんは、その名にふさわしくなく、超肉食である。鳥、豚、牛、なんでもござれだ。ハムやウィンナー、シュウマイ、ハンバーグ、焼き肉とあらゆる肉料理に狂気乱舞する。1歳児にしてベジタリアンからすると鼻つまみ者に成長した。

1歳3ヶ月の現在、スプーン食べとつかみ食べを併用しているが、リスくん用の皿に肉をおかないと、「あじゃじゃじゃ(訳:肉をおけ!)」とスプーンをふりあげ抵抗する。

自慢じゃないが、我が家のエンゲル係数ほど、右肩上がりで前途有望な数字はないだろう。

 

義母はいとしい初孫リスくんの好物が肉だとしり、奮発して「蒲田鳥山」に連れて行ってくれた。

「蒲田鳥山」は「千と千尋の神隠し」の舞台もモデルでも知られる、山の上に存在する囲炉裏の炭火で焼き鳥を楽しめる食事処だ。

食べることと子どもが大好きな義姉※もいっしょに来てくれた。

 

※離婚した元夫の姉は、なんて呼べ...以下略

 

義母と義姉は野鳥コースを、私は若鶏コースを頼んだ。野鳥コースはスズメやウズラなどの鳥を焼く。高校生のときに、「まりちゃんって、スズメに似てるね」といわれて以来、スズメに人知れずご縁を感じ続けてきた私は、共食いするような気分になり若鶏コースを選んだ。

実際に焼きはじめて、「訳ありの家族」は重大な問題に直面した。リスくんが炭火に近づき、焼きナスならぬ、焼きリスができる可能性がでてきたのだ。

いびつな家族とはいえ、一族が愛してやまないリスくんを守らなくてはならない。義母は焼き場担当し、1つ隣の空いている席に義姉と私が向かい合って座る。囲炉裏から一番遠い場所にリスくんをおきブロックする布陣を組んだ。リスくんが近寄ってくると、私と義姉で焼いた鳥やら野菜をちらつかせ意識をそらす。その作戦は見事成功し、リスくんは囲炉裏で焼きリスになることから免れた。

 

リスくんは最初に焼けたウズラの卵を気に入り、ひたすら卵を食べる。一段落したら、次に焼けた鳥にうつった。野菜には目もくれず、焼いた鶏肉に突進する。リスくんが食べる速度が早いので、義母は焼くことに、義姉と私はリスくん用に食べられる大きさに裂くのに大忙しだ。一通りの肉を食べ比べしたリスくんは、おいしい肉を学んだらしく、義姉の皿にあるウズラの肉ばかり貰いにいくようになった。1歳児にして、野鳥のおいしさがわかるなんて、将来がすえ恐ろしすぎる。結果、義母は食が細いのでほとんど食べず、大人一人前の野鳥をリスくんは平らげた。

 

外食から帰宅後、もってきた絵本を読もうとバックから出すとき、おそろしい偶然が起きていることに気づく。リスくんが最近の選びに選び抜いたお気に入りの1冊、それは「うずらちゃんのかくれんぼ」という絵本なのだ。物語の内容は、うずらちゃんとひよこちゃんがかくれんぼをして遊ぶという内容で、風景の中にかくれたうずらちゃんやひよこちゃんを探して遊ぶことができる絵本だ。ちなみに、皇室の愛子さまが幼いときにお気に入りだった絵本としても有名だ。

 

 

うずらちゃんのかくれんぼ (幼児絵本シリーズ)

うずらちゃんのかくれんぼ (幼児絵本シリーズ)

 

 

 

 

絵本の台詞「こんどは(うずらちゃんやひよこちゃんは)どこだ?」と読み聞かせると、リスくんがうずらちゃんやひよこちゃんが隠れた先を指でさす。わたしは、心の中で「いやいや、(お前の)お腹のなかだろう...」と赤ずきんのオオカミのように意地わるい気持ちでほくそ笑む。だけど、(お腹は中年オヤジのようだが)リスくんは汚れを知らない立派な赤ちゃんだ。さっき食べたウズラが絵本にでてきてるとは、知らないほうがよいことの1つだと言い聞かせ、「リスくん、正解!よくできたね」と賢母の顔に戻った。

丑三つ時の攻防戦〜夜泣き攻略法〜 

一歳ごろに夜泣きがピタリと止まった息子リスくん。だけれども、保育室に通いはじめた環境の変化によるものか、リスくんの夜泣きが復活した。

 

私が夜泣きや寝かしつけで考えている作戦は、必殺「何もしない」だ。

何もしないで、となりに横たわる。背中をトントンすらしない。森に何十年と横たわる倒木のように動かない。品が良くない言い方をすれば、まぐろ状態だ。

「私は女優、倒木になりきるのよ」と言い聞かせ、主役のリスくんに蹴られようが覆いかぶさってこようが鼻の穴に指をつっこまれようが動かない。

唯一、リスくんが舞台(布団)から落ちそうになったときだけ、黒子役にさま変わりして、舞台(布団)中央にもどす。

 

子どもは世の中のルールを学び中だから、泣けばあやしてもらえるというルールを極力つくらないようにしたい。

寝かしつけに関しては、成功?していて、布団に寝そべさせれば疲れているときは数秒、そうでないときは20分くらいで寝る。

 

寝かしつけで「何もしない」という作戦なのは、他にも理由がある。子育てコミックエッセイ『ママはテンパリスト1』(東村アキコ)の1つのエピソードを読んだからだ。息子の寝かしつけに苦労している母親(著者)が、父親にもその苦労を味あわせようとしたところ、すんなりいつも寝かしつけできる。何をしているのかのぞいたら、何もしていなかったという話だ。

 

ママはテンパリスト 1 (愛蔵版コミックス)

ママはテンパリスト 1 (愛蔵版コミックス)

 

 

 

なーんだ、何もしなければいいのでは。夜泣きがしんどくて、寝ても覚めても、寝てもらうことばかり考えてしまっていた私は、これを決行することにした。

泣いても何もしてもらえないと、放置された子供の心理面を気にした。が、よくよく考えれば、欧米は子供部屋にひとりで寝させてほっておくし、断乳時はいずれ泣かせてしまう。そして私の心理面への影響のほうが深刻で、このままいくとリスくんを恨んでしまいそうだった。であれば、母子ともに穏やかにすごすことが大事なのだ。リスくんと二人暮らしの密室で、私が暴走したらだれも止める人がいない。

 

で、夜泣きの復活。何もしない作戦決行だ。

 

保育室にあずけることへの罪悪感からか、リスくんの「あーあー」という泣き声が「僕を預けたな〜、僕を預けたな〜」と聞こえる。

 

昨晩の夜泣きは長く、1時間くらいかかった。自分の泣き声に陶酔し音量をあげ、悲しい気持ちも盛り上がるらしく、西へ東へじたばた寝返りする。

完全にこじらせた感があった。リスくんは目を閉じながら泣いていたので、まぐろや倒木の役に飽きた私は、枕元に忍ばせたiphoneをいじる。

しばらくすると、半目をあけたリスくんが仁王立ちになりこちらを見ている。げっげっバレた。急いでIphoneを隠し、ふただび役に集中する。

さらに泣きじゃくるので観念して、リスくんを腕のなかに抱きしめた。そうしたらすーっと寝た。

 

私の負けだ。リスくん。

私たちの戦いは今後もつづく。

添い寝もしない、真の「何もしない」寝かしつけ法を確立するまで。〜続〜

 

〜追記〜

夜泣き対策。臨床心理士の方が夜泣きを減らす方法について考えています。きっと、何もしないで泣かし続けるって結論になるのだろうな。参考までに。

 

http://apital.asahi.com/article/nayamu/2013103000008.html

ファーストシューズ〜偉大なる一歩〜

赤ちゃんには思い入れのある「初めて」がつきものだが、ファーストシューズはその上位にしめる代物(シロモノ)ではなかろうか。歩けるようになるまで育てられた喜びとともに、今後も人生という道をしっかり歩いてほしいという願いを込めながら用意する、そんな象徴的な物、それがファーストシューズだ。

 

「ファーストシューズは靴屋の専門家に選んでもらうとよい」児童館で開催されたセミナーで、靴の専門家からそう習った。そのため、大金をにぎりしめ靴の専門店の扉をあけ「我が息子リスくんよ、地面での最初の一歩はプロが選んだ快適な靴をまとうがいい」と靴を用意する心構えをしていた。そして「この一歩は、一人の人間にとっては小さな一歩ですが、人類にとっては大きな一歩です。」とアームストロングさんの言葉を借りてお祝いする、そんな風景を予定していた。

 

ファーストシューズ購入のタイミングは、ふいに訪れた。義母※の家に滞在中に「リスくんは、こんなに歩いているのだから、早く外で歩いたらいいわ。私が靴を買ってあげる」との彼女の発言とともに。自然豊かな田舎にそだった義母は、いつも折に触れては「子どもは自然が好き。なるべく外に出しなさい」と私にささやいてきた。「自律神経をやしなうために冬でも裸で日光浴をさせるといいわ」と。だから、外にでる機会を逃してはならないと義母が靴を用意したくなるのは当然のことだった。

100g100円以下の肉を買うことをモットーとするような裕福ではない身としては、「くるモノ拒まず、さるモノは売る」精神だ。「タダほどうれしいモノはない」そんな気持ちで、当初の母としてのファーストシューズへの思い入れはどこへやら、義母の提案を快諾した。

 

※義母とは離婚後もいつまで親子(おやこ)でいましょうという契りを結んでいる。

 

義母の家の近くには、お店は駅ビルぐらいしかない。昔は栄えていたのだが、住民の高齢化とともにお店の販売内容も高齢化している。街に一軒しかない靴屋に行ったが、案の定、赤ちゃん向けの靴は売っていなかった。スーパーを歩いていたところ、ほんの気持ち程度に備えている赤ちゃん用品売り場があった。夏物のセールをやっており、昭和のアイドルがきてそうな蛍光色のカラフルなタンクトップやTシャツが100円で売っていた。こちらに目を奪われ、何着か購入した。少し厚手のTシャツを着ていたリスくんは、「子どもは、冬でも薄着」教の義母にタンクトップに着替えさせられすぐさま昭和のアイドル(風)になった。

 

猫の額ほどの赤ちゃん用品売り場だったので、赤ちゃん用の靴は売っていないように思えた。しかし、くまなくあたりを見渡すと、サイズが12cmの白い靴が一種類あった。「あった、ありましたよ!お母さん(←照れがありよべない)」とよんだ。すぐに、右足の靴の中に入っている詰め物(緩衝剤)をとりだし、リスくんに履かせてみた。足裏をあわせてみると、ちょっと大きいくらいだったが、履かせてみるとぴったりだった。靴を買うだけのために出かけてきた私たちは、街唯一の靴屋に目的の品がなかった敗北を経て、目的を「リスくんにあう靴選び」から「リスくんの足がはいる靴えらび」にレベルをおとしていた。とにかく、履けた。もうこれでよいのではないか。私たちは言葉をかわさなかったが無言の意思疎通をして、レジに靴を持って行った。800円なり。

 

値札をとってもらい、ベビーカーにふてぶてしく寝そべっている王子様、リスくんに靴を履かせようとした。右側は義母、左側は私の担当だ。義母はすんなり履かせることができたが、私は足を靴先までうまくいれることができない。優等生根性が消えない私は、義母から手際がわるいと思われやしないかあせり、さらに力をこめる。さながらシンデレラ候補と名乗り出て靴が入らない娘の気分だ。それに比例するようにリスくんは不機嫌にぐずりはじめる。靴の形が違うのでは、と靴に責任を押し付けようとしたそのとき、義母が私の手から靴をうばい、靴の中をのぞいた。「まりさん、詰め物がはいったままよ」と丸められた紙を取り出す。「あっ」そういえば試し履きするときに右側は緩衝剤を取り出して、どうせ買うのだからとそれをポッケにいれたのだった。恥ずかしさで頭が真っ白になり「ごめんなさい」と義母に頭をさげた。謝る先はリスくんではという突っ込みをこころの中でしながら。

 

無事?ファーストシューズを履かせることができた義母と私は意気揚々とリスくんをスーパーに解き放つ。さぁ歩くのよ、リスくん。

リスくんは、おお股だけど、内股になりながら、よたよたと歩きはじめた。その姿は「その者、昭和アイドル風の衣をまといて、ひなびたスーパーに降り立つべし」(by ナウシカ大バーバ)。さてさて、リスくんは「失われし大地との絆を結び、ついに人々を青き清浄の地へ導」いてくれるのかな。奇声を発しながら、壊れた「からくり人形」のように拍手して、楽しそうに歩く息子をみて、世界は救うなんて大それたことはいいから、ただただ幸せな人生を歩んでくれたらなぁと願わずにはいられなかった。

 

 

新居の事件簿③ 発泡スチロールカーニバル

私は(あなたと同じで)自分のことを常識的な人間だと思っている。それなのになぜか、家族から「常識がないね」とよく言われる。

そんな私でも、口をあんぐり開け、アゴがはずれかけるほど、非常識だと呆れてしまった事件があった。

 

息子リスくんとの新居は、設備が古い。築浅な物件にすむことが多かった私は、今の住まいにみすぼらしい気分になることがあった。だから、気持ちをアゲようと、インテリアや家具は厳選して、お気に入りの空間づくりに燃えていた。

そんななか最も難航したのがキッチン棚だ。キッチンが狭いので食器や電子レンジ、キッチン雑貨をおく場所がない。わけあって料理熱が沸騰寸前になっているココロに、冷や水をかけてくるのが、モノで溢れかえった台所だった。これは早急に手をうちたいと、格安と思われるニトリやIKEAのキッチン棚を見て回った。いいなとおもっても、割高な気がしてお気に入りがなかなか見つからない。

「私が気に入るキッチン棚はこの世に存在しないのかもしれない」途方にくれかけたとき、amazonでみかけたキッチン棚が見た目も価格も素敵だった。たまたま通りかかった家具屋に同じ棚があり、現物を目にして気に入ったが、品切れになっていて入荷は随分先であった。入手しにくさがますます気に入り、amazonで購入することにした。

 

ここで大問題なのが、この棚の組立だ。安いだけあって、組立は購入者がなんとかしないといけない。

高校時代、バンドのドラムと水泳部を掛け持ちしていた私は、午前中に地区の水泳大会、午後に文化祭でのバンド発表と無謀な日程をこなした結果、翌日腰が痛くて動けなくなった。軽度の椎間板ヘルニアだった。以来10年間ほど、背筋(はいきん)を使うような重い物をもったりするのは一切やめてきたが、リスくんを持ち上げるのはさすがに避けてとおれなく、腰痛が再発した。毎朝腰をもみながら起きあがる日々を送っている。

そのため、リスくんの体重の数倍ありそうなこの棚を自ら組み立てするという選択は、自滅行為に等しい。

 

誰かに組み立てをお願いするしかないのだが、一番頼みやすい父は、部品の多さと老眼では読めない小さい文字の説明書に、段ボールを開けた途端にギブアップした。いろいろなあても、多忙な人ばかりで日程が随分さきになりそうだった。

棚購入から1ヶ月半経ち、私の貴重な料理熱が冷めないうちに、お金の力で解決するしかないな~と腹をきめたのである。

 

そもそも安くすませたいがためにネットで購入したので、組立にお金をかけたくない。

代行で組立をしてくれる業者があることをしり、ネットで5社ほど見積もりをだした。

家具の買い出しや組立を専門にしている業者もあれば、草むしりから墓掃除まで何でもする便利屋さんが、業務の1つとして家具の組み立てを取り扱っているところもある。

だいたいの会社が、組立代+出張費+(駐車場代)で値段が構成されていた。

組立代はだいたいどこも変わらないので、実質「出張費≒自宅からお店の距離」で決まるといってよさそうだ。

できれば組立を専門にしているところがいいな~と思っていたが、どこも自宅から遠い場所だった。

最安値で見積もりの報告があり、自宅に一番近い便利屋さんに仕方なく依頼することにした。

 

次に解決すべき問題は、組立中に誰が立ちあうかだ。我が家は狭いので、家具の組み立てスペースを確保したら、リスくんの遊ぶスペースがない。組立中リスくんを連れて外出する必要があるので、私の代わりに立ち会ってくれる人が必要だ。また、女所帯なので万が一変な会社で何かあったらという不安もあった。だから、長年自営業で部下を厳しくチェックし続け、しまいには誰もついてこなかった?感のある父に白刃の矢をたて立会いをお願いした。

 

そして、組立当日。

アルファー波がでていそうなバリトンの声の持ち主で誠実そうな男性(以下バリトンさん)が現れ、組立に着手した。もくもくと組み立てる彼に対して、話し好きの父が盛んに話しかけて組立の邪魔をしているのが気になったが、リスくんを連れて児童館に遊びに行った。

所要見積もり時間は1時間となっていた(見積もりに出した会社はどこもそれくらいだった)が、2時間半ほど経ち、「そろそろできあがりそう」という連絡をうけた。

これは想定内だった。なぜなら、この棚の口コミに、「棚自体は満足だが、組立には骨がおれた。難しかった。半日かかった。」などの記述を目にしていたからだ。

まぁ、父の相手をしていてますます時間がかかっているのかもしれないし、申し訳ないなと思いながら、家に戻った。

 

 

家に帰ると、ほとんど棚は出来上がっていた。最初は父の話にきちんと応対していたバリトンさんだったが、なんでも「そうですね~」との相づちで済ませながら、完成を目指していた。そして完成。後ろの時間が迫っていたのだろう、棚を配置してほしいと言っていた場所にすぐに置いた。が、配置して欲しいと言っていた場所の下には、棚の作成時に出た発泡スチロールやテープ、段ボールの切れ端など、リスくんが喜んで口に入れそうな「ごみくず」がたくさん散乱していた。「棚の下のごみくずを掃除させてください」と言い、棚をもう一度持ち上げてもらい、それらのごみくずを片付けた。そして、帰り支度をしながら、焦りがみえるバリトンさんに、仕事を引退し毎日がサンデーな父親が、少しでも仕事をしてもらおうとプレッシャーをかける。「組立の際の出たごみは持ち帰ってもらえるの?」

バリトンさんは困り顔を必死に作り笑いにかえ、「ごみの廃棄は別途お金が必要になりますが、ごみを捨てやすいように紐やゴミ袋に取りまとめまでは無償でしておきますね」と答えた。

 

また、そのごみが厄介だった。材料である木材一枚一枚の間に発泡スチロールをはさんで梱包されており、大きなゴミ袋でも分解しないと入らない。バリトンさんは、発泡スチロールを材料が梱包されていた段ボールの中でバキバキと手で折っていく。まるでストレス発散のためにモノを壊すことを快感に感じている人のように。

発泡スチロールを折ったことがある人ならご存知かもしれないが、折った際に細かい破片がでる。たちまち、段ボールの中は大粒の雪のような発泡スチロールの破片で埋め尽くされた。この破片の処理をするために、私は掃除機を持ち出したが、バリトンさんが「静電気でくっついていて吸い取れないはずです。私に任せてください。」と自信満々になぜか外を眺めた。バリトンさん、さすが便利屋さん解決能力がある、と感心しながら見守った。すぐさま「布団がほしてあるけど大丈夫かな」とひとりごちながら、バリトンさんは発泡スチロールいりの段ボールをもって、ベランダにでていってしまった。

 

その後の光景に私と父はあっけにとられた。バリトンさんが段ボールを逆さまにし、雲一つない快晴の青空に向かって発泡スチロールの破片を手ですくい出している。小さな沈没船に浸水した水を懸命にすくいだしているかのように。演歌歌手が歌うときに背景に使用される紙吹雪のように舞い落ちる発泡スチロールの破片。

私と父は顔を見合わせた。「。。。」

 

父は窓にとびついて開け、「後はこちらでやりますので、大丈夫ですよ」とバリトンさんに声をかける。

やっと解放されるとホッとした表情のバリトンさん。代金をうけとり、そそくさと帰っていった。

 

ベランダには無数の発泡スチロールがコロコロ転がっている。下をのぞくと、庭には発泡スチロールがぱらぱらと点在していた。

「彼のような人が海にごみを捨てるのかな。非常識だよね。」

環境問題を憂うように私がいうと、父は無言で私の手からほうきとちりとりを奪い丹念に発泡スチロールのごみを掃き取った。